PHP 5.4.0 以降では、コードを再利用するための「トレイト」という仕組みが導入されました。
トレイトは、PHP のような単一継承言語でコードを再利用するための仕組みのひとつです。 トレイトは、単一継承の制約を減らすために作られたもので、 いくつかのメソッド群を異なるクラス階層にある独立したクラスで再利用できるようにします。 トレイトとクラスを組み合わせた構文は複雑さを軽減させてくれ、 多重継承や Mixin に関連するありがちな問題を回避することもできます。
トレイトはクラスと似ていますが、トレイトは単にいくつかの機能をまとめるためだけのものです。 トレイト自身のインスタンスを作成することはできません。 昔ながらの継承に機能を加えて、振る舞いを水平方向で構成できるようになります。 つまり、継承しなくてもクラスのメンバーに追加できるようになります。
例1 トレイトの例
<?php
trait ezcReflectionReturnInfo {
function getReturnType() { /*1*/ }
function getReturnDescription() { /*2*/ }
}
class ezcReflectionMethod extends ReflectionMethod {
use ezcReflectionReturnInfo;
/* ... */
}
class ezcReflectionFunction extends ReflectionFunction {
use ezcReflectionReturnInfo;
/* ... */
}
?>
基底クラスから継承したメンバーよりも、トレイトで追加したメンバーのほうが優先されます。 優先順位は現在のクラスのメンバーが最高で、その次がトレイトのメソッド、 そしてその次にくるのが継承したメソッドとなります。
例2 優先順位の例
基底クラスから継承したメソッドは、MyHelloWorld に SayWorld トレイトから追加されたメソッドで上書きされます。 この挙動は、MyHelloWorld クラスで定義したメソッドでも同じです。 優先順位は現在のクラスのメンバーが最高で、その次がトレイトのメソッド、 そしてその次にくるのが継承したメソッドとなります。
<?php
class Base {
public function sayHello() {
echo 'Hello ';
}
}
trait SayWorld {
public function sayHello() {
parent::sayHello();
echo 'World!';
}
}
class MyHelloWorld extends Base {
use SayWorld;
}
$o = new MyHelloWorld();
$o->sayHello();
?>
上の例の出力は以下となります。
Hello World!
例3 もうひとつの優先順位の例
<?php
trait HelloWorld {
public function sayHello() {
echo 'Hello World!';
}
}
class TheWorldIsNotEnough {
use HelloWorld;
public function sayHello() {
echo 'Hello Universe!';
}
}
$o = new TheWorldIsNotEnough();
$o->sayHello();
?>
上の例の出力は以下となります。
Hello Universe!
複数のトレイトをひとつのクラスに追加するには、use 文でカンマ区切りで指定します。
例4 複数のトレイトの使用例
<?php
trait Hello {
public function sayHello() {
echo 'Hello ';
}
}
trait World {
public function sayWorld() {
echo 'World';
}
}
class MyHelloWorld {
use Hello, World;
public function sayExclamationMark() {
echo '!';
}
}
$o = new MyHelloWorld();
$o->sayHello();
$o->sayWorld();
$o->sayExclamationMark();
?>
上の例の出力は以下となります。
Hello World!
同じ名前のメンバーを含む複数のトレイトを追加するときには、 衝突を明示的に解決しておかないと fatal エラーが発生します。
同一クラス内での複数のトレイト間の名前の衝突を解決するには、 insteadof 演算子を使って そのうちのひとつを選ばなければなりません。
この方法はひとつのメソッドだけしか使えませんが、 as 演算子を使うと、 衝突するメソッドのいずれかを別の名前で含めることができます。
例5 衝突の解決
この例では、Talker がトレイト A と B を使います。 A と B には同じ名前のメソッドがあるので、 smallTalk はトレイト B を使って bigTalk はトレイト A を使うように定義します。
Aliased_Talker は、as 演算子を使って B の bigTalk の実装に talk というエイリアスを指定して使います。
<?php
trait A {
public function smallTalk() {
echo 'a';
}
public function bigTalk() {
echo 'A';
}
}
trait B {
public function smallTalk() {
echo 'b';
}
public function bigTalk() {
echo 'B';
}
}
class Talker {
use A, B {
B::smallTalk insteadof A;
A::bigTalk insteadof B;
}
}
class Aliased_Talker {
use A, B {
B::smallTalk insteadof A;
A::bigTalk insteadof B;
B::bigTalk as talk;
}
}
?>
as 構文を使うと、 クラス内でのメソッドの可視性も変更することができます。
例6 メソッドの可視性の変更
<?php
trait HelloWorld {
public function sayHello() {
echo 'Hello World!';
}
}
// sayHello の可視性を変更します
class MyClass1 {
use HelloWorld { sayHello as protected; }
}
// 可視性を変更したエイリアスメソッドを作ります
// sayHello 自体の可視性は変わりません
class MyClass2 {
use HelloWorld { sayHello as private myPrivateHello; }
}
?>
クラスからトレイトを使えるのと同様に、トレイトからもトレイトを使えます。 トレイトの定義の中でトレイトを使うと、 定義したトレイトのメンバーの全体あるいは一部を組み合わせることができます。
例7 トレイトを組み合わせたトレイト
<?php
trait Hello {
public function sayHello() {
echo 'Hello ';
}
}
trait World {
public function sayWorld() {
echo 'World!';
}
}
trait HelloWorld {
use Hello, World;
}
class MyHelloWorld {
use HelloWorld;
}
$o = new MyHelloWorld();
$o->sayHello();
$o->sayWorld();
?>
上の例の出力は以下となります。
Hello World!
トレイトでは、抽象メソッドを使ってクラスの要件を指定できます。
例8 抽象メソッドによる、要件の明示
<?php
trait Hello {
public function sayHelloWorld() {
echo 'Hello'.$this->getWorld();
}
abstract public function getWorld();
}
class MyHelloWorld {
private $world;
use Hello;
public function getWorld() {
return $this->world;
}
public function setWorld($val) {
$this->world = $val;
}
}
?>
静的な変数をトレイトのメソッド内で参照できますが、 トレイトがそれを定義することはできません。 しかしトレイトでは、クラス用の静的メソッドを定義することはできます。
例9 静的な変数
<?php
trait Counter {
public function inc() {
static $c = 0;
$c = $c + 1;
echo "$c\n";
}
}
class C1 {
use Counter;
}
class C2 {
use Counter;
}
$o = new C1(); $o->inc(); // 1 と表示
$p = new C2(); $p->inc(); // 1 と表示
?>
例10 静的なメソッド
<?php
trait StaticExample {
public static function doSomething() {
return 'Doing something';
}
}
class Example {
use StaticExample;
}
Example::doSomething();
?>
トレイトにはプロパティも定義できます。
例11 プロパティの定義
<?php
trait PropertiesTrait {
public $x = 1;
}
class PropertiesExample {
use PropertiesTrait;
}
$example = new PropertiesExample;
$example->x;
?>
トレイトでプロパティを定義したときは、クラスでは同じ名前のプロパティを定義できません。
定義しようとすると、エラーが発生します。クラス側での定義がトレイトでの定義と互換性がある
(可視性も初期値も同じ) 場合は E_STRICT
、
それ以外の場合は fatal error となります。
例12 衝突の解決
<?php
trait PropertiesTrait {
public $same = true;
public $different = false;
}
class PropertiesExample {
use PropertiesTrait;
public $same = true; // Strict Standards
public $different = true; // Fatal error
}
?>