このページでは、多少の「理論」も含めた sbt のビルド定義 (build definition) と build.sbt
の構文を説明する。
君がsbt の使い方を分かっていて、「始める sbt」の前のページも読んだことを前提とする。
ビルド定義には以下の 3 種類がある:
.sbt
ビルド定義
.sbt
ビルド定義
.scala
ビルド定義
このページでは最も新しいマルチプロジェクトでの .sbt
ビルド定義を紹介する。
これは従来の 2 つのビルド定義の長所を組み合わせたもので、全ての用途に適している。
以前に書かれたビルド定義を使って作業をするときは、古い種類のものも目にするかもしれない。
それらに関しては (このガイドの後ほどの) bare .sbt ビルド定義と .scala ビルド定義を参照。
さらに、ビルド定義は project/
ディレクトリ直下に置かれた .scala
で終わるファイルを含むことができ、そこで共通の関数や値を定義することもできる。
ここは読んで下さい
あらかじめ決められたディレクトリを走査し、ビルド定義に関するファイル群を処理した後、最終的に sbt は Project
の定義群を作る。
例えば、カレントディレクトリにあるプロジェクトの Project 定義は build.sbt
に以下のように記述できる:
lazy val root = (project in file("."))
それぞれのプロジェクトは、そのプロジェクトを記述する不変 Map (キーと値のペア群のセット)に関連付けられる。
例えば、name
というキーがあるが、それはプロジェクト名という文字列の値に関連付けられる。
ビルド定義ファイルは直接的には sbt の Map に影響を与えない。
その代わり、ビルド定義は Setting[T]
型のオブジェクトを含む巨大なリストを作る。
T
は Map における値の型だ。(Scala の Setting[T]
は Java の Setting<T>
と同様。)
Setting
は、新しいキーと値のペアの追加、既存の値への付加のような Map の変換を記述する。
(不変データ構造と関数型プログラミングの精神に則り、この変換は新しい Map を返し、古い Map は更新されない。)
カレントディレクトリに位置するプロジェクトに対してプロジェクト名のための Setting[String]
を関連付けるためには以下のように書く:
lazy val root = (project in file(".")).
settings(
name := "hello"
)
この Setting[String]
は name
キーを追加(もしくは置換)して "hello"
という値に設定することで Map を変換する。
変換された Map は新しい sbt の Map となる。
Map を作るにあたり、同じキーへのすべての変更が同時に実行されるため、そして、他のキーに依存する値の処理が依存するキーの後に処理されるように、
sbt はまず Setting
のリストをソートする。
次にソートされた Setting
のリストを順番にみていって、一つずつ Map に適用する。
まとめ: ビルド定義とは Setting[T]
のリストを持った Project
を定義するものであり、
Setting[T]
は sbt が持つキーと値のペアの Map に作用する変換を表し、その T
は値の型である。
build.sbt
はどのように settings を定義するか build.sbt
が定義する Project
は settings
と呼ばれる Scala の式のリストを持つ。
以下に具体例を示す:
lazy val commonSettings = Seq(
organization := "com.example",
version := "0.1.0",
scalaVersion := "2.11.7"
)
lazy val root = (project in file(".")).
settings(commonSettings: _*).
settings(
name := "hello"
)
それぞれの Setting
は Scala の式で定義される。
settings
内の式は、それぞれ独立しており、完全な Scala の文ではなく、式である。
build.sbt
内には val
、lazy val
、def
を定義することもできる。
build.sbt
において、トップレベルで object
や class
を定義することはできない。
それらが必要なら project/
配下に .scala
ビルド定義として完全な Scala ソースファイルを置くべきだろう。
左辺値の name
、version
、および scalaVersion
は キーである。
キーは SettingKey[T]
、TaskKey[T]
、もしくは InputKey[T]
のインスタンスで、
T
はその値の型である。キーの種類に関しては後述する。
キーには :=
というメソッドがあり、このメソッドは Setting[T]
を返す。
Java っぽい構文でこのメソッドを呼び出すこともできる:
lazy val root = (project in file(".")).
settings(
name.:=("hello")
)
しかし、Scala なら name := "hello"
と書くこともできる(Scala では全てのメソッドがどちらの構文でも書ける)。
name
キーの :=
メソッドは Setting
を返すが、特に Setting[String]
を返す。
String
は name
自体の型にも表れていて、そちらは SettingKey[String]
となる。
ここで返された Setting[String]
は、sbt の Map における name
というキーを追加または置換して "hello"
という値に設定する変換である。
誤った型の値を使おうとするとビルド定義はコンパイルエラーになる:
lazy val root = (project in file(".")).
settings(
name := 42 // コンパイルできない
)
キーには三種類ある:
SettingKey[T]
: 一度だけ値が計算されるキー(値はプロジェクトの読み込み時に計算され、保存される)。
TaskKey[T]
: 毎回再計算されるタスクを呼び出す、副作用を伴う可能性のある値のキー。
InputKey[T]
: コマンドラインの引数を入力として受け取るタスクのキー。
「始める sbt」では InputKey
を説明しないので、このガイドを終えた後で、Input Tasks を読んでみよう。
組み込みのキーは Keys と呼ばれるオブジェクトのフィールドにすぎない。
build.sbt
は、自動的に import sbt.Keys._
するため、sbt.Keys.name
は name
として参照することができる。
カスタムキーは settingKey
、 taskKey
、 inputKey
といった生成メソッドを用いて定義する。
どのメソッドでもキーに関連する型パラメータを必要とする。
キーの名前は val
で宣言された変数の名前がそのまま用いられる。
例として、新しく hello
と名づけたキーを定義してみよう。
lazy val hello = taskKey[Unit]("An example task")
実は .sbt
ファイルには、設定を記述するのに必要な val
や def
を含めることもできる。
これらの定義はファイル内のどこで書かれてもプロジェクトの設定より前に評価される。
val
や def
を用いた定義群は空白行によって他の設定から区切らなければいけない。
注意 一般的に、初期化順問題を避けるために val の代わりに lazy val が用いられることが多い。
TaskKey[T]
は、タスクを定義しているといわれる。タスクは、compile
や package
のような作業だ。
タスクは Unit
を返すかもしれないし(Unit
は、Scala での void
だ)、
タスクに関連した値を返すかもしれない。例えば、package
は作成した jar ファイルを値として返す TaskKey[File]
だ。
例えばインタラクティブモードの sbt プロンプトに compile
と入力するなど、何らかのタスクを実行する度に、
sbt はそのタスクを一回だけ再実行する。
プロジェクトを記述する sbt の Map は、name
のようなセッティング (setting) であれば、
その文字列の値をキャッシュすることができるが、
compile
のようなタスク(task)の場合は実行可能コードを保持しておく必要がある
(たとえその実行可能コードが最終的に文字列を返したとしても、それは毎回再実行されなければならない)。
あるキーがあるとき、それは常にタスクかただのセッティングかのどちらかを参照する。 つまり、キーの「タスク性」(毎回再実行するかどうか)はそのキーの特性であり、その値にはよらない。
:=
を使うことで、タスクに任意の演算を代入することができる。
セッティングを定義すると、その値はプロジェクトがロードされた時に一度だけ演算が行われる。
タスクを定義すると、その演算はタスクの実行毎に毎回再実行される。
例えば、少し前に宣言した hello
というタスクはこのように実装できる:
lazy val hello = taskKey[Unit]("An example task")
lazy val root = (project in file(".")).
settings(
hello := { println("Hello!") }
)
セッティングの定義は既に何度か見ていると思うが、プロジェクト名の定義はこのようにできる:
lazy val root = (project in file(".")).
settings(
name := "hello"
)
型システムの視点から考えると、タスクキー (task key) から作られた Setting
は、セッティングキー (setting key) から作られたそれとは少し異なるものだ。
taskKey := 42
は Setting[Task[T]]
の戻り値を返すが、settingKey := 42
は Setting[T]
の戻り値を返す。
タスクが実行されるとタスクキーは型T
の値を返すため、ほとんどの用途において、これによる影響は特にない。
T
と Task[T]
の型の違いによる影響が一つある。
それは、セッティングキーはキャッシュされていて、再実行されないため、タスキキーに依存できないということだ。
このことについては、後ほどの他の種類のセッティングにて詳しくみていく。
sbt のインタラクティブモードからタスクの名前を入力することで、どのタスクでも実行することができる。
それが compile
と入力することでコンパイルタスクが起動する仕組みだ。つまり、compile
はタスクキーだ。
タスクキーのかわりにセッティングキーの名前を入力すると、セッティングキーの値が表示される。
タスクキーの名前を入力すると、タスクを実行するが、その戻り値は表示されないため、
タスクの戻り値を表示するには素の <タスク名>
ではなく、show <タスク名>
と入力する。
Scala の慣例にならい、ビルド定義ファイル内ではキーはキャメルケース(camelCase
)で命名する。
あるキーについてより詳しい情報を得るには、sbt インタラクティブモードで inspect <キー名>
と入力する。
inspect
が表示する情報の中にはまだよく分からない点もあるかもしれないが、一番上にはセッティングの値の型と、セッティングの簡単な説明が表示されていることだろう。
build.sbt
内の import 文 build.sbt
の一番上に import 文を書くことができ、それらは空行で分けなくてもよい。
デフォルトでは以下のものが自動的にインポートされる:
import sbt._
import Process._
import Keys._
(さらに、.scala ファイルがある場合は、それらの全ての Build
と Plugin
の内容もインポートされる。
これに関しては、.scala ビルド定義でさらに詳しく。)
サードパーティのライブラリに依存するには二つの方法がある。
第一は lib/
に jar ファイルを入れてしまう方法で(アンマネージ依存性、unmanged dependency)、
第二はマネージ依存性(managed dependency)を加えることで、build.sbt
ではこのようになる:
val derby = "org.apache.derby" % "derby" % "10.4.1.3"
lazy val commonSettings = Seq(
organization := "com.example",
version := "0.1.0",
scalaVersion := "2.11.4"
)
lazy val root = (project in file(".")).
settings(commonSettings: _*).
settings(
name := "hello",
libraryDependencies += derby
)
これで Apache Derby ライブラリのバージョン 10.4.1.3 へのマネージ依存性を加えることができた。
libraryDependencies
キーは二つの複雑な点がある:
:=
ではなく +=
を使うことと、%
メソッドだ。
後で他の種類のセッティングで説明するが、+=
はキーの古い値を上書きする代わりに新しい値を追加する。
%
メソッドは文字列から Ivy モジュール ID を構築するのに使われ、これはライブラリ依存性で説明する。
ライブラリ依存性に関する詳細については、このガイドの後ろの方までとっておくことにする。 後ほど一ページを割いて丁寧に説明する。